ポケットの中に、去年の冬からずっと入れっぱなしの小さなハンカチがあります。使おうと思って入れておいたのに、いつの間にか存在を忘れ、ただ持ち歩くだけのものになっていました。今日、ふと取り出してみたら、端が少しくたびれていて、でも、それを見てなぜか温かい気持ちになりました。
物には「記憶」が染み込むことがあるような気がします。たとえば、家の鍵を握ると、「ここが自分の帰る場所だ」と思えるし、好きな人にもらったマグカップを使うと、その人の笑顔が浮かびます。私たちは日々、こうして無意識のうちに小さな記憶を持ち歩いているのかもしれないですね。
ポケットの中のハンカチも、きっとそんな存在なのかも。いつかの寒い日に、手を温めるためにぎゅっと握ったこと。コーヒーをこぼして、慌てて拭いたこと。恋人がくしゃみをしたとき、「使う?」と差し出して、「いや、ティッシュがいいかな」と笑われたこと。何でもない日常の断片が、ぎゅっと詰まっているようです。
最近、効率や合理性ばかりが求められるけれど、こういう「役に立たないもの」を持ち歩くのも悪くない。実際のところ、人生で一番大切なのは、目に見えないものだったりするのだから。
そろそろこのハンカチも洗って、ちゃんと使ってあげよう。新しい記憶が染み込むように、またポケットにそっと入れて持ちあるこうと思います。
